【第4回】 最適なエビデンスとは何か?(後編)

公開日: 2016年10月19日水曜日




 第4回目となる今回は、前回の続きです。

情報を網羅的に検索する


 歯周ポケット内に貼薬する歯周病治療用軟膏『ペリオゲイン』。
 海外で行われたランダム化比較試験(Randomized Controlled TrialRCT)によると、対照群と比べて効果がみられるということでした(もちろん架空の話です)。
 Batistutaらの試験によると、プラセボ群では平均1.9mmポケットが浅くなるのに対して、ペリオゲイン群では平均4.2mmポケットが浅くなったと報告されています。

 こういう報告を見ると、
「『RCTは最強のエビデンス』ってどこかで聞いたような気がするし、うちのクリニックでも導入しようかなぁ〜?」
って、考えてしまいませんか?

 でも、ちょっと待ってください!

 ここで大切になるのが、「イマドキEBM」の2番目の原則『ベストエビデンスサマリー』なのです。

 歯科業者も製薬会社も、売るための情報しか持ってきません
 Batistutaら以外の研究者が、同じような検証をしているかもしれません。
 今はインターネットさえあれば、無料でMEDLINEが検索できる時代です。
 検索してみましょう。





 検索してみたところ、同じような試験があと4つあることがわかりました(もちろん全部架空ですよ)。
 よく結果を見てみると「Beckhamの試験では効果は小さそうだな……。あれ? KahnRoonyのやつはプラセボの方がよくなってるぞ! えーっ!これって本当に効くの?」。

 この段階で、私のペリオゲインに対する信頼は少し揺らいできました。
 みなさんはどうでしょうか?


エビデンスをサマリーする


 「5つの試験の結果って、まとめるとどうなるのだろう?」
 そう考えるのは自然なことです。

 網羅的に論文を検索し、組み入れ、分析・統合し、治療の有効性を示す方法をシステマティック・レビュー(Systematic reviewSR)と呼びます。
 また、これに用いる統計学的手法をメタアナリシスと呼びます。
 ペリオゲインに関する5つの研究(架空ですよ、架空!)のメタアナリシスを行ってみましょう。




 
この図は、フォレストプロットと呼ばれるものです。
 それぞれの試験における効果量の平均値が で示されています
 左側に寄るとペリオゲインに効果を示し、右側に寄るとプラセボの方が大きな効果を示します。
 たとえばBatistutaらの研究は左側に寄っているため、「ペリオゲインに効果あり!」という結果を示しており、KahnRoonyらの試験は右側に寄っているので「コントロールに効果あり!」という結果を示しています。

 5つの試験を統計学的に統合した結果は、◆ にて示されています
 これは、単純にそれぞれの試験の結果の平均をとったものではありません。
 各試験のサンプルサイズ(被験者数)などをもとに、Weightといわれる統計量を算出し、それに応じて試験ごとに重み付けをしたうえで、統合しています。

 今回の結果を見てみると、◆ は中央の0軸の上にみられます。
 つまり、統合した結果からは「ペリオゲインは効果を示さない」ということができます。

 製薬会社から送られてきた資料には、Batistutaらの試験の結果しか記載されていませんでした。
 よい効果を示すエビデンスだけが取捨選択され、誇張されることはよくあることです。
 こういった現状に対して、「イマドキEBM」では『ベストエビデンスサマリー』を重要視します。つまり、これまでに発表されているエビデンスのサマリーを使う必要があり、可能であればSRを用いるべきなのです。
  

そもそもRCTは最強なのか?


 これまで、
  • エビデンスの中でもっとも信頼性の高いものは RCT
  • RCTを統合したSRがさらにその上位にある

という階層があると考えられてきました。
はたして本当にそうなのでしょうか?

 倫理的・構造的にRCTが施行できないようなテーマ・疑問も多く存在します
 このような場合には、観察研究が重要な意味を持ちます。
 例えば「たばこは歯周病悪化の要因になるか?」という疑問に対して、『患者群をランダムに2群に分けて、一方にタバコを吸ってもらう』という試験は倫理的に不可能です。
 また、RCTであってもその質が低くければ価値が高いとは言えません
 厳密にデータを採取した観察研究は、雑に行われた RCT よりも優れているのです。

 さらに、明らかに効果のある治療法では、わざわざRCTは行われません
 例えば、『失活した歯にRCT(こちらはroot canal treatmentです。紛らわしいですね)を行うべきか』というRCTは(あっ、こちらはRandomized controlled trialです)、おそらく存在しません。
 RCTを行うまでもなくわかり切っているので,行わないのです。
 「RCTがないから効果がない」とはいえません。

 これらのことも考慮して、「なにがベストエビデンスなのか?」を考える必要があります。

 RCTだからベスト」という単純なことではありません

 それぞれのエビデンスの質の評価を行い、ベストエビデンスを選定します。

 そしてベストエビデンスのサマリーを用いることが大切なのです。
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