【第3回】 最適なエビデンスとは何か?(前編)
公開日: 2016年9月12日月曜日
ベストエビデンスサマリー
エビデンスのみを用いて臨床を行うことは “ネバー エナフ” である――これはEBMの創成期から一貫して唱えられてきた大切な事柄です。
それに対して、3原則の2つ目 “Best Evidence Summary ” は、今ドキEBMにおいて重要視されてきた事柄です。
エビデンスを臨床決断の一要素として用いる際、最適なエビデンスとはどのようなものなのでしょうか?
私の専門分野の例で恐縮なのですが、歯周病治療における抗菌薬局所投与を例にとって、このことを考えてみます。
よくみかける謳い文句
上図にみられるような広告があったとします。もちろん架空のはなしです。
軟膏には細菌に効く抗生剤と組織治癒に効く成長因子の両方が含まれていて、「歯周病によく効く」とパンフレットには書かれていたとします。
パンフレットをよく見てみると、下記のような実験から得られたデータが記載されていました。
MICは細菌の最小発育阻止濃度を示していますから、小さいほうがよく効く抗生剤ということになります。ゆえに一般的に用いられているミノサイクリンよりも、ペリオゲインに含まれている抗生剤の方が歯周病原菌に実験ではよく効くということが記載されています。
また、同様に成長因子も歯根膜由来細胞によい効果を示すことが示されています(架空の話ですよ!)。
このようなパンフレットを見て、「このクスリ効きそうだ! うちのクリニックでも使おう!」という判断はできるでしょうか?
やはり臨床のデータが欲しい!
実験室のデータをもとに臨床を行うのは、抵抗があります。なぜなら、実験に用いる細菌や細胞と、患者さんの口腔内は同じとはいえないからです。やはり、臨床のデータが欲しいのです。そうでなければ「このクスリを使うかどうか?」という決断はできません。
そう思っていたところ、パンフレットの裏面を見てみると臨床写真が載っていました(もちろん、これも架空の話です)。
2つのケースの写真とプロービングポケット深さが記載されています。ペリオゲインを用いると、ポケットが浅くなり、見た目の炎症も収まったかのように思わせます。
さて、「臨床の写真もあるし! このクスリ効きそうだ! うちのクリニックでも使おう!」という判断はできるでしょうか?
比較が必要!
写真をよく見てみると、Case 1ではクラウンが新製されています。Case 2では歯頸部に堆積していたプラークがきれいになっています。すなわち両方の患者において、通常の歯周治療も行われていたのではないかと推察されます。
これだけではペリオゲインの作用によって病状が良化したのかどうか結論つけるのは困難です。比較が必要なのです。
そう考えて、販売元の製薬会社に問い合わせてみると、海外の臨床論文の要旨が送られてきました。
この研究では 60人の患者さんをランダムに2群に分けて、片方の群では超音波スケーラーによる歯肉縁下デブライドメントを行い、もう片方の群ではこれにペリオゲインを併用しています。そして3ヵ月後のPPDを比較しています。
このような研究デザインはランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial : RCT)と呼ばれ、もっとも質の高いデータが得られる臨床研究デザインと考えられてきました。
結果は、プラセボ群では平均1.9mm ポケットが浅くなるのに対して、ペリオゲイン群では平均4.2mm ポケットが浅くなり、その差は 2.3 mm でした。
質の高いデータが得られやすいといわれている RCT の結果ですから、信頼してよさそうです。
さて、「RCTのエビデンスもあるし! このクスリ効きそうだ! うちのクリニックでも使おう!」という判断はできるでしょうか?
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