第2回 エビデンスの誤用・誤解から脱却しよう
公開日: 2016年8月8日月曜日
外部から情報を得る
筆者は10年目歯科医で、主に大学病院で歯周病の治療を日々行っています。臨床経験は十分とは言えず、日々模索しながら日常臨床に挑んでいます。
臨床は決断の繰り返しで、臨床決断には経験がものを言います。しかしながら、経験の引き出しから答えを探し出すことができない場合には、苦悩します。先輩に相談したり、商業誌や講演会、セミナーなどから得た情報をもとに臨床決断を下すことが多いのではないでしょうか。
これは「自分自身の経験では足りないところを、他の人の経験で補うこと」を意味します。商業誌、講演会、セミナーではエキスパートの経験を擬似体験し、自分の経験を補っているのです。
私も商業誌には可能な限り目を通し、興味がある講演会やセミナーには参加するようにしています。
また、自分自身の引き出しを増やすことを何よりも大切と考えていて、臨床写真などの記録を極力残し、年に一度はケースプレゼンテーション(症例報告)に挑むよう心がけています(症例報告は炎上することも多いですが……)。
筆者のように臨床経験が不足していたら、このように外部の情報に頼らざるを得ません。
しかしながら、どんなにその道を極めようとも、医学は日進月歩です。
エキスパートにはエキスパートなりの苦悩があり(あくまでも推測ですが)、やはり外部から知識を得ることは必要不可欠です。
その外部情報(=evidence)をどのように用いるかという方法論が、Evidence Based Medicineです。
臨床家が日々行っている行動について、「より良く行うにはどうすべきか?」を規定している行動規範のようなもので、問題解決ツールです。
Evidence Based Medicine based,,,,,,,
「当クリニックはEBMに基づいた治療を行っています」
という広告を見かけたり、著名な先生が「この治療はEBMに則っていまして……」と仰られるのをよく聞きます。
また巷には、“EBMに基づいた◯◯治療法”といったタイトルの書籍を多く存在します。
これらはすべて間違いです。
EBMは“エビデンスを用いた医療”です。
にもかかわらず、EBMというモノが存在して、それに基づいて治療するという変な誤解があるのです。
このような誤解のもとに“Evidence Based Medicine based,,,,,,,”という言い方をしてしまうのです。
EBMは問題解決ツールであり、眼前にあるのは“患者さん”と“自分”と“外部のエビデンス”の3つだけです。
EBMというモノは存在しません。
エビデンス イズ ネバー エナフ
EBMの認知度が高まるにつれ、エビデンスを過剰に重要視する医療従事者や製薬会社がみられるようになりました。
医療従事者は自身の治療を正当化するためにエビデンスを用い、製薬会社は利益をあげるためにエビデンスを用いるようになりました。
「この電動歯ブラシが良いというエビデンスをあるので、これを使うことをお勧めします」という宣伝をみたことがあるでしょう。
このような行動が、EBMに対する間違ったイメージを与えることとなったといえます。
「今ドキEBM」の3原則では、“Evidence is Never Enough to Drive Decision Making”ということが掲げられています。
“Evidence is Never Enough to Drive Decision Making”
「エビデンスのみでは臨床決断は不可能である。」
これは決して「今ドキ」なことではありません。EBMの創世記から語られていることです。
「患者の病状と周囲を取り巻く環境」がまず存在し、これを整理したうえで、そこに「エビデンス」から得られる知見を加えます。そして「患者の好みと行動」を加味し、「自分自身の経験」と照らし合わせて、決断を下します。
これらが「EBMの4要素」とされてきました。
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「エビデンス イズ ネバー エナフ」なのです。
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